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飯塚病院呼吸器内科のブログ
by res81
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福岡県の飯塚病院呼吸器内科のブログです。

呼吸器内科スタッフ13名+呼吸器腫瘍内科スタッフ1名+専攻医4名+特任副院長1名(R5年4月現在)で、日々楽しく頑張っています。
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ANCAの穴

スタッフ228号です。
さっそく、こちらの写真をご覧ください。。。

ANCAの穴_d0264356_04441821.png
ANCAの穴_d0264356_04444678.png
ANCAの穴_d0264356_04450147.png

みなさんは、この穴をどのように捉えるでしょうか?

ちなみに、上肺野はこんな感じです。

ANCAの穴_d0264356_04451801.png
ANCAの穴_d0264356_04452940.png

男性で喫煙歴もあるとのこと。

上肺野の写真はまず気腫で異論はないかと思います。

では、下肺野はどうでしょうか?
上肺野と併せて一元的に考えれば、気腫でいいんでしょうけど、どうでしょう?

嚢胞(間質性肺炎)の可能性はどうでしょうか?

詳細は省略しますが、本症例は肺気腫と認識され(画像診療科の読影でも)、けれども呼吸機能検査では一秒率の低下はなく(COPDの定義満たさず)、労作時呼吸困難があったようですが、経過観察のみ行われていたようです。


数ヶ月後・・・

腎機能が急激に悪化、血尿と蛋白尿あり、いわゆる急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の診断で腎臓内科入院となりました。
この際に、血清のMPO-ANCAの値を測定すると、、、

81.5!!

た、高っ!!



ということで、今日はMPO-ANCAの肺病変について。。。



今は便利な世の中で、Googleなんかで「ANCA」と入力すれば、すぐにガイドラインなどが手に入ります(日本語版も含め)。
そういったガイドラインなどでは、MPO-ANCA陽性の方は肺病変を合併しやすく、主な肺病変は、肺胞出血間質性肺炎、間質性肺炎の中では、UIPパターン(蜂巣肺)が多いらしい、と大体記載してあります。

ANCAの穴_d0264356_20071197.png
ANCAの穴_d0264356_20072170.png
ANCAの穴_d0264356_05193650.png
↑ この3枚の写真は、発熱と乾性咳嗽の精査でMPO-ANCA陽性間質性肺炎が見つかった方のCT写真で、ステロイドと免疫抑制剤の治療で症状コントロールが得られています。

というわけで、ぼくたちはUIPパターンを含め間質性肺炎をみたときには、当然MPO-ANCAの値をチェックするわけですが、ここでひとつ問題が。


穴をUIPパターンを含む間質性肺炎として認識できるかどうか?という点。


ANCAの穴は、IPFにおける蜂巣肺のときよりも大きいという話を時折耳にしますので、穴がたくさん空いていて(蜂巣肺っぽくて)、でもなんか少し大きい穴もあるなぁというとき(上の症例の*印)なんか、もしやANCA陽性?なんて思ったりもしますが、最初の症例はどうでしょうか?
下肺野の穴は、たしかに大きくて壁も持っているようですし、嚢胞として認識できれば、線維化もあるだろう(間質性肺炎だろう)、ということでANCAを測定したりもするでしょうが、ただの大きめの気腫として認識していたら、ANCAの測定には至らないですよね。。。


この症例をみて思ったわけです。

もしかしたら、こういった肺の穴が日常的には気腫として認識されていて、ANCA(ないし間質性肺炎)が見逃されているのではないか・・・


もちろん、あの穴が本当にANCAによる穴、ANCAによる間質性肺炎と言ってよいのかは分かりません。
たまたま肺に穴があいていて、たまたまMPO-ANCAが陽性になっただけかもしれませんし。
そもそもANCAは血管炎をもたらすわけで、肺の毛細血管がやられて肺胞出血を来たすのは納得がいきますが、間質性肺炎を来たす理由はいまいち分かりません。出血を繰り返すことで線維化が進行していく、という話はあるようですが。
でも、ANCA陽性の間質性肺炎は、ANCA陽性じゃない間質性肺炎と比べて、少し違うようです。
病理学的に、ANCA陽性間質性肺炎では、リンパ濾胞が多かったり、膠原病関連の間質性肺炎と似るようなんですね。Resp Med. 2012; 106: 1765-70.
だから、きっとANCAによる間質性肺炎もあるんでしょうけど、先の症例はそもそも間質性肺炎といってよいのかどうか。


実はこの方、呼吸機能検査でCOPDの基準を満たさなかった(閉塞性障害なし)、と書きましたが、拘束性障害もなくて、数値上はほぼ正常だったんですね。
ですので、経過観察となっていたようですが、が、これだけ肺に穴があいているのに、呼吸機能が正常というのも変な気もします。

そこで考えられるのは、気腫と間質性肺炎とが混在すると、閉塞性障害と拘束性障害とが相殺されて、一見呼吸機能検査上の数値が正常に見える、という原理。気腫合併間質性肺炎 combined pulmonary fibrosis and emphysema; CPFEにおいて、よく知られた原理です。

つまり、逆説的ですが、呼吸機能検査が正常→閉塞性障害と拘束性障害が相殺→気腫合併間質性肺炎あり→下肺野の穴は間質性肺炎→ANCAも測定しておく、という考えは、少し無理矢理かもしれませんが、この症例を振り返ってみて、たとえ穴を間質性肺炎と認識できなくとも、呼吸機能検査からちょっとおかしいなと思ってANCAを測定するには、あってもいい考えかなぁと思ったりしました。

ちなみに、CPFEでは、拡散能の低下が目立つとも言われています。本症例は拡散能までは検査されていませんでしたが、労作時呼吸困難があったようですし、拡散能が低下している可能性は十分考えられます。


ひとつのメッセージとして、
「肺に穴があいていて、一見呼吸機能が悪そうなのに呼吸機能検査が正常、でも労作時呼吸困難がある場合は要注意!!」
(実は閉塞性障害と拘束性障害が混在して相殺しているだけかも、拡散能が低下していたりするのかも?? = 気腫合併間質性肺炎や肺高血圧症の存在を示唆する)
ということを記載しておきたいと思います。


本当は、あの穴の組織を採取して病理学的にもみてみたいものですが、腎機能も悪化している今、肺の組織を採取することは難しそうです。


さて、穴をどう認識するかは難しいときがあるわけなんですが、この症例で考えたい点は、もうひとつあります。

もし肺病変で受診していた際にANCAが確認され、ステロイドなどの治療が介入されていたら(治療介入するかは十分検討が必要ですが)、もし治療が導入されていたら、もしかしたら腎病変は予防できたのではないか?という点です。

これはあくまで私見ですので、真実は分かりませんが、以前RPGNを契機に腎臓内科で治療導入された方々の肺病変について検討したとき、案外肺胞出血が少なかったんですね(あくまで自験例です)。このとき思ったのは、ANCAの方は、早めに治療導入しておけば、他の臓器への障害を予防する可能性があるんじゃないか、ということでした。
ただ、実際にはそういったエビデンスはなく、膠原病内科の先生に聞いても、必ずしもそういうわけではなさそうとのことでした。

このとき、ANCAの数値は下げておくにこしたことはない、とも思ったりしましたが、ANCAの数値が必ずしも間質性肺炎の病勢を反映する、とは結論づけられていませんので(血管炎としての病勢は反映するようです)、実際はANCAが高くても、自覚症状が乏しくて臓器障害もさほどなければ、基本的には経過観察になるわけなんですよね。ステロイドなど治療による合併症を考えると、おそらくそのほうがいいのでしょうけども、個人的には後々臓器障害が出てしまうのも嫌だなぁと思ったりもします。


現状では、疑わしい人は、なるべく早めにANCAを見つけて、治療介入するかを検討して、治療するにしろしないにしろきちんと経過をみていくことが大切なことなんだと思います。


この辺、お詳しい方がいらっしゃいましたら、コメントなどいただけますとありがたいです。


ANCAの肺病変に関して検討した報告はけっこうあるみたいですし、そういったのもご参照いただければと思います。ここでは、その中のひとつを載せておきます〜 J Comput Assist Tomogr. 2004; 28: 710-6.



最後に、

呼吸器内科でANCA陽性の方をフォローするときのコツ
(by 膠原病内科の某先生)

一見肺に活動性がないように見えても、他臓器に活動性がある場合があるため、他臓器のチェックが重要!!

ということで、

 *頭部MRIを定期的に
 *眼底 ➡ 眼科での評価を定期的に
 *尿検査、血清Cr測定を定期的に
 *皮膚病変は患者さんから申告してもらう

ご参照ください〜



************** 追 記 **************


穴や穴の周囲にどれくらい線維化があるのか・・・

これはなかなか画像だけでは正直分からないことも多いです。
先日、研究会である先生から、この点に関してアドバイスというかコメントをいただきました。

「聴診でfine crackleが聴こえるようなら、線維化がある目安になると思う」

むむったしかに〜!!

昨今の臨床医は、呼吸器内科医でさえ、聴診をする機会が減ってきているように思います。
どうしてもCTや呼吸機能検査上の数値ばかりで判断してしまう。
でも、やっぱり身体診察も大切。
患者さんとのコミュニケーション、という意味でも。
改めて、身体診察も疎かにしないように心がけよう、と思った瞬間でもありました。

ということで、さっそくAmazonで肺の聴診の本を購入してしまいました(笑)
心音の聴診の本はよく見ますが、最近では肺の聴診の本も案外あるんですねぇ






by res81 | 2014-03-10 05:49 | 間質性肺炎 | Comments(0)
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